MBA流 大人の学ぶ力

MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題から何が学べるかを考察します。by 若林計志

「対立する人」(敵)を「問題解決の仲間」に変える交渉術

交渉上の細かい条件でもめている場合、本来のゴールに立ち返ることの大切さを考えさせてくれる良いコラムを発見しました。

 

東レ:市場は後からついてくる」(Diamond Harvard Business Review Oct 2015)には、ユニクロ東レが、どのような交渉をベースにヒートテック開発を行ったかについて、その秘話が掲載されています。

 

 ヒートテックは、合成繊維で4種類の糸を使って作られているそうですが、それは業界的には不可能な話で、社内でそんな提案が出てきたら、

 

「お前はわかっていない」(常識がわかっていない素人だ)

 

と集中砲火を浴びただろうと、日覺氏(東レ代表取締役社長)は当時の様子をインタビューで語っています。

 

しかしユニクロはまさにそれを要求してきたため、

 

「それじゃあダメだ」(ユニクロ側)

「できるわけないじゃないか」(東レ側)

 

というやりとりが何度も繰り返され、現場は一時期かなり険悪は雰囲気だったそうです。

 

しかし結局1万回の試作をつくって実験を重ねた結果、できないと思われたヒートテックがなんと完成。世界的な大ヒットとなりました。

 

当初のユニクロ東レの対立を図解するとこうなります。

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*この図はTOC(制約理論)の「クラウド」という図解方法なのですが、読み方は

 

ユニクロ側)「A.衣服で世界を変えるには、C.全く新しいハイテク素材で勝負したい。それならば、D'東レヒートテック(新しい合成繊維)を作って欲しい」

 

となります。

 

でも同じようにして、東レ側の要望を見ていると、

 

「繊維で世界を変えていく」ためには「無駄な努力をしない(リソースを守る)」

 

となっており、矛盾しているんですね。

 

「世界変えるためには常識に挑戦しなければならない」

 

ということはイノベーターである東レ側も重々分かっているんだけど、現実問題として難しい、という話なんです。だから、実は東レ側の「内部対立」(現実と理想)でもあるんです。

 

だからユニクロの交渉の切り口としては、「一緒に世界を変えていきましょう」という理念レベルでの「共通のゴール」を設定することがキーになります。

 

ここが握れてしまうと、ユニクロから「世界を変えていくのに、いままでの常識どおりのことをやっていて変えられますか」という質問をされると「うぐぐ」とならざるをえない。

 

元々イノベーターである東レは常識を破りたいわけですから、「その通りだよね。いっちょやったろかい」と言ってくれる可能性が高いのです。

 

もちろんビジネスですから、背に腹はかえられません。したがってユニクロ側としてもう一押しするなら、「試行錯誤についてはユニクロ資金を出して同じ船に乗るから、一緒にやりましょうよ」ということになります。

 

もちろん、東レにその潜在的な能力がなければ、ユニクロにとってはドブにお金を捨てる話ですが、

 

ユニクロ東レのポテンシャルを信じていたこと

東レ自身も挑戦を受けた立ちたいという潜在的欲求があったこと

ユニクロは販売力があるので、成功したら果実は十分甘いこと

 

という条件があったからこそ交渉が成り立ち、ヒートテックを大成功に導いたのだろうと思います。

 

両者にとっての「共通のゴール」を設定すると、

 

対立の関係(敵)→問題解決(共通の敵を倒す)仲間

 

というスタンスを取りやすくなります。このあたりが、この交渉の一番のポイントだったのだろうと思います。

 

ではなぜ、「敵」が「仲間」になったのか。

 

小難しくいうと

 

「分離」→「非分離(統合)」

 

に変化したからです。つまり、東レユニクロは当初

 

「あなたはあなた」

「私は私」

 

という分離状態にあったのですが、

 

共通のゴールを見出したことで

 

「私はあなた」

「あなたは私」

 

の非分離状態に変化したんです。つまり、ユニクロ東レであって、東レユニクロであるという、運命共同体の状態です。

 

だから、世界を変えていくのに、いままでの常識どおりのことをやっていて変えられますか」という正論には勝てない。だって自分で矛盾していることに気付いちゃうから。

 


実は、交渉が上手い人って、この辺りが上手いんですよね。例えばこのコラムに良い例が載っています。

president.jp

 孫さんが、リクルートからの転職を固辞していた青野さん(元ソフトバンク執行役員)をどう口説いたのか。

 

記事にはこんなやりとりが描かれています。

 

孫「いまの世の中、おかしいと思わないか。それを変えていくのは政治家か、官僚か。それはビジネスという世界から変わるんじゃないか。じゃあ、それができる経営者は誰だ」

 

青野「孫さんかもしれません」

 

孫「そうだ。俺が変えていく。」「これまでの人事は、みんなすぐ辞めてしまった。おまえをやっと見つけた。うちに来て、人事をやれ。800社を預ける。世界を変える。俺の夢に乗れ」

 

この30分のやりとりで、青野氏は頑なに拒否していた転職を決意することになります。

 

先ほどと同じ「クラウド」図で書くとこんな風になります。

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当初青野さんは、漠然と「安定した生活を守りたい」や「リクルートで責任ある仕事を全うしたい」という要望があったのだと推測しますが、その奥には、

 

「世の中を良くしたい」(=それこそが良い人生だろう)

 

という潜在的な思いがあった。そこを孫さんは見抜いて直球を投げ込んだ。当然、青野さんは「そうですね」という回答になる(ならざるをえない)ので

 

「だったら、そのベストな方法はSBしかないんじゃないか(少なくとも「安定した生活」じゃないよね)」

 

という流れになるわけです。これは説得でも何でもなく、東レユニクロの交渉と同じように「孫=青野」という統合(同志的結合)の当然の結末ということになります。

 


 ちなみに、マーケティングの際に「売り手」と「買い手」が一体化(非分離)すると、売上がダントツに上がると説くのは、マーケッターの神田昌典さんです。

 

新刊にその辺りのロジックが詳しく書いてあるので、ぜひどうぞ。

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また「クラウド」の使い方は、「ザ・ゴール2 コミック版」がオススメです。(漫画版の方は、内容もいろいろとアップデートされています。)

ザ・ゴール2 コミック版

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