MBA流 大人の学ぶ力

MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題から何が学べるかを考察します。by 若林計志

オペレーションこそが経営戦略

4月7日、セブンの鈴木会長が退任するニュースがでて世間を騒がせましたが、その背景の一つに、「ヨーカ堂の過剰在庫100億円を伊藤家に買い取って欲しい」と、鈴木さんが打診したことが背景にあるようです。

 

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記事によれば、ヨーカ堂のCEOも兼任する鈴木氏が、作りすぎた衣料品などの在庫を富豪の伊藤名誉会長が買い取り、寄付してはどうかと提案したそうですが、それがかえって伊藤家(一族)の鈴木さんへの不信感につながったようです。

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この問題を読み解くヒントになるのが「 ウォルマートに呑み込まれる世界」という8年前の本です。

 

米国最大のスーパーセンター(ホームセンター&スーパーマーケット)の実像を書いた本ですが、ここに書かれている状況がちょっと遅れて日本にもやってきています。

ウォルマートに呑みこまれる世界

ウォルマートに呑みこまれる世界

 

本書の中では、中小企業がウォルマートと取引できるようになって喜んだのもつかの間、大量の発注に耐えられるように設備投資をしたにもかかわらず、いきなりウォルマートから発注キャンセルされたり、取引自体が突然打ち切られ、泣く泣く潰れていくような悲惨な状況が書かれています。

 

しかしこれは単に

 

「ウォルマートひどい」

 

ということではなく、ウォルマート自体もサバイバルのために苦しんでいることを示しています。

 

消費者の嗜好の変化(ボラティリティ)は年々激しさを増していますし、ネットも含め購入先のオプション(交渉術でいうBATNA)は増えています。

 

そういう気まぐれな顧客を相手に商売する場合、すばやくそのニーズの変化についていく必要がある訳ですが、リードタイム(設計/製造してから、お店に並ぶまでの時間)が長いと、ニーズについていけなくなります。

 

例えば

「この商品が売れそうだな」

「爆買いでこの商品が欠品しているな」

 

というニーズをつかんで、設備投資をして商品を作り始めたり、追加生産しても、リードタイムが90日あると、90日はじーっと待たないといけない。

 

しかし、90日後にその商品が本当に売れるかどうかがわからないのです。

 

したがってウォルマートの発注に応じて、90日かけて一生懸命1万個商品を作っていても、80日目ぐらいで、その商品の売れ行きが悪くなっていることがわかると、納品前にキャンセルされてしまう。

 

もちろんキャンセルできないように契約書で縛ることもできるでしょうけど、実質的に大企業vs下請けの立場では、対等な交渉は難しいことも多いのです。(簡単に代替の効くコモディティ商品を作っている企業ならばなおさらでしょう)

 

またウォルマート側も、明らかに売れない商品を仕入れてしまっては赤字になる訳ですから必須にキャンセルするでしょう。(もちろん自社製造した商品だったらキャンセルできませんから、不良在庫を抱えることになり、経営を悪化させます。これが一部のメーカーが苦しんでいる要因です。)

 

ではこの問題を解決する処方箋は何かと言えば「過剰在庫を持たないようにすること」です。

 

どうすればそれが可能になるかといえば、一つは販売店舗に在庫を持たせ、本体はその責任を負わないシステムにすることです。

 

セブンイレブンフランチャイズ/チェーン方式がその典型ですが、本社は開発/仕入れを行い、各店舗はそれを買い取る方式にすれば、在庫リスクは各店舗が負うことになります。

 

もちろん、各店舗が個人事業主のように収益責任を負い、自己意志で仕入れができばベストですが、売り逃がしを防ぐために、本社は各店舗に廃棄ロスを含めて購入を強く「推奨」します。(これが「コンビニ会計」でよく問題になる点です)

 

この方式は食品などがメインのコンビニではうまく機能しましたが、衣料品や耐久消費材の多いヨーカ堂GMS)のような業態では必ずしもうまくフィットしなかったようで、売れ残りの不良/過剰在庫を本体が抱える結果に繋がり、業績を悪化させたようです。 

 

またサプライチェーン全体で見れば、不良在庫が店舗にたまるわけで、あまりベストなやり方とは言えません。

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過剰在庫を作らないための、もっと本質的なやり方が「リードタイムを圧縮する」ことです。

 

90日先のニーズではなく、14日先のニーズを予想するであれば、予想精度は圧倒的に高くなります。また予想が外れても、売れ行きを見ながら生産を調整できるので、不良在庫を削減できます。

 

ではそれが本当に可能なのかといえば、もちろん可能で、ZARAユニクロが、リードタイムを圧縮して、在庫処分セールを不要にする体制を築いてきているのはよく知られています。

 

また絶好調のMazdaが、リードタイム圧縮の決め手としてTOC(制約理論)を使ってキャッシュフローを改善し、それをスカイアクティブ開発に回すことで業績を回復させたのも、だんだん知られるようになってきています。

 

消費者の心変わりが早いマーケットを相手にするスーパーや製造業において

 

経営戦略=オペレーション」 

 

という傾向は年々高まりそうです。